「感情分析」技法による人格改善治療
5.実践の方法
5.1 基本姿勢の確立

(3)自己建設型の生き方に変える姿勢とは

 自分の思考がどのようなパターンかを把握できるようになったら、いよいよ本格的な感情分析の開始です。

 ここでは、これ以後にずっと取っていただく、感情と行動に対する基本姿勢を説明します。

 ハイブリッド療法では理性と感情に別のアプローチを取ります。
 理性においては、自己建設型の生き方へ自分を変えていく努力をします。
 感情に対しては、無意識領域への取り組みを行います。
 このうち、あなたの理性を使って、自己建設型の生き方へ自分を変えるとは、具体的にどのような姿勢のことをいうのかです。

 感情と行動に対して、全く別の姿勢を持って下さい。

1)感情への基本姿勢

 これから自分の中で感じる感情がどのようなものであっても、決してその善悪評価をしないで下さい。
 人への好意は善で、人への敵意は悪、ではありません。
 どちらがより合理的なのかは、その状況と相手による相対的な話です。

 例えば、自分の中に他人への嫉妬と憎悪が猛烈に湧き出た時、その感情をどう考えるか。
 ここに、この療法の実践が始まります。
 「こんな感情を抱く自分は駄目な人間だ」と考えるのはひとりよがり型の思考です。
 自己建設型の思考においては、感情はひとつの事実として認める、それだけです

2)行動への基本姿勢

 行動については、現実において、自分にとって最も建設的なものを考え選ぶ努力をして下さい。
 何が最も建設的なのかを判断するためには、決め付け思考にとらわれず、柔軟に現実を見て下さい。
 ここで、自分の感情もひとつの現実として、尊重して下さい。

 決して物事の1面だけを考えないことです。
 自分にとって建設的であるとは、「善い」ことをするのではなく、自分を優しく強く育てることをするということです。
 人の輪に入って明るく振舞うことは、社会から見れば「善い」ことであっても、現に疲れて憂うつな感情にいる自分に鞭を打ってそう振舞うことは、決して建設的ではありません。
 草花を育てるように、愛しいペットを育てるように、それと同じような心で、自分に接することを心がけて下さい。

 「駄目な自分に皆と一緒にいる資格はない」は典型的なひとりよがり思考です。
 どんなに「性格が悪い」としても、入会資格があれば入れるのが現実の社会のルールです。

 対人的な行動については、特に怒りや憎悪を行動化しないよう、踏みとどまって下さい。
 どんな状況であろうと、相手にどんな非があろうと、怒りを単純に行動化することは、あなたの心身を消耗させ、たとえ一時的な気晴らしはあったとしても、無用な敵を増やす結果となり、結局自分の生活を不利にしてしまいます。

 あとは「自己建設型」の生き方へで説明した全てが指針です。
 ここでも、どのように考えるのが建設的なのか、他者のアドバイスも有益です。

悪感情は正さない

 このように、感情はひとつの事実として認める一方、行動については前を向く努力をするということになります。

 そこで問題は、建設的でない感情をどうするかです。
 悪感情を「正す」ことはしません。
 感情は意識で制御するのは不自然であり、それを自分に強いたことが心理障害の始まりと考えています。
 (参照:理論編2.2 感情の成り立ちの人格構造モデル

 感情が変わるのは、結局のところ、その感情が現実において無駄だったり不合理であることを、心の底から実感した時だけです。
 表面的に気分を変えようとしても変わるものではありません。

 自己建設的な思考が身につくにつれて、心理障害の影響の少ない部分では、感情もそれに伴って次第に、開放的で、前向きで、明るいものに変わって行きます。
 なぜなら今までの「ひとりよがり型」の思考は、心理障害がなくても、拘束や反抗、敵意や憎悪といった実に暗い感情を生み出す傾向があるからです。

 しかし、心理障害があると、意識的な前向き思考だけでは、もはや変えることができません。
 後から後から悪感情が、意識より深い心の芯から湧き出てくるからです。

 ここから、精神分析的な技術を活用した、本格的な感情分析が必要になります。


2003.6.14

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