心の成長と治癒と豊かさの道 第4巻 ハイブリッド人生心理学 理論編(下)−病んだ心から健康な心への道−

まえがき

 

 

 『理論編上巻 −心が病むメカニズム−』では、人の心が病む過程において働く心の歯車と、そのそれぞれに対する、克服への基本的な方向性を説明しました。これは、今まですでに自分の心に起きていることを理解し、それをどのように方向転換していくのが望ましいかを理解していくという話になります。

 ただしそれは主に、心を病む方向への歩みを止めるということです。一方、根本的な治癒と、そしてさらなる心の成長へと歩むとは、「誤りを正す」という減算法ではなく、全く未知なる世界へと歩むという、加算法の話になります。

 この『理論編下巻 −病んだ心から健康な心への道−』において、そうした未知なる心の成長への道のりを説明します。

 

 この道のりは、「揺らぎない自尊心に支えられ、愛によって満たされ、もはや何も恐れるもののない心」へと至る道です。

 そこには、今まで決して語られることのなかった、心の未知なる成長の姿があるでしょう。たとえば、私たちがこの現代社会の中で「こうなってしまってはまずい」と感じる「心の障害の感情」は、実は心が自ら未知なる成長へと向かおうとしていることの表れとして生まれます。私たちはそれを「心の持ちよう」や、さらには「薬」によって押さえつけようとすることで、自らその成長への道を閉ざしてしまっているのです。

 一方で、人間の心の真実は一つです。それが歩む道のりの細かいバリエーションと、それを説明する言葉がさまざまに違ってはいても、それが至る真実は、全てが同じものを指しているのではないかと、私は考えています。それはたとえば仏教やキリスト教などの偉大な宗教と、各種の良質な精神療法、さらには多数の先人の人生訓が指し示したものと、同じものになるでしょう。

 ハイブリッド心理学はそれを、徹底した科学的そして医学的な思考の上に整理したものと言えます。

 

 そのような未知なる心の成長と人間の真実に向かうために、お勧めとなるこの本の読み方があります。

 それは「未来を見据え現在に取り組む」と言えるものです。

 この先にどんな未知なる心の成長が待っているのかをしっかり念頭に入れながら、今の自分の心を知り、取るべき姿勢と進み先を考えていくことです。その途上で、今現に自分の心に起きていることを再び深く理解する必要が出た都度、『上巻』の内容を再び何度でも確認して頂くのが良いでしょう。

 この『下巻』は、一度全体をざっと読み、ゴールまでのおおよそイメージをつかむのがいいでしょう。それが、遠く望む道標の役割を果たすものになります。

 そして再び、最初に戻り、じっくりと自分の立つ位置を確認しながら、そこで述べられている方向性や心の姿勢、そして思考法行動法の実践に取り組んでいくのです。それを、この人生で何度でも繰り返すことです。

 これは2年や3年で済ませることではく、生涯を通して歩んでいくものになります。

 

 そうした「未来を見据え現在に取り組む」という進み方とは、実際の意識姿勢においては、遠く先に見据えるものとはむしろ逆の方向へと向かっていき、その結果その変化へと近づくというような、極めてパラドックス的なものになると、私は考えています。

 これは、人間の心が病むということ自体がパラドックスの中で起きることに対応して、そこからの治癒と成長へ向かう意識も、パラドックスの中で歩むものになるのでしょう。

 たとえば、心が清らかになった自分を望むのであれば、まず今現在のすさんだ感情を受け入れることです。心を解き放って人とつながりを持てる自分になりたいのであれば、人とつながり得ない自分の心を受け入れることです。

 そこに、「ありのままの自分」を受け入れ自分で受けとめるという「心の自立」が起き、そこに神秘なる心の自然治癒力と自然成長力が働く。それがこの「病んだ心から健康な心への道」の主題とも言えるものになります。

 

 一方お勧めでないのは、「こうなれた自分」という「結果」ばかりを自分に当てはめるというものです。

 何のことはありません。それは「あるべき姿」をイメージして自分に心を枠をはめ、心を縛って生きるという、「入門編」から説明を始めた、現代人の生きる姿勢に他なりません。

 それをまずスタート地点として、その根底で心に起きたことを知り、それを乗り越える心の自然治癒力と自然成長力がどのように開放されるのかを理解する。そしてそこへと歩みはじめるのです。

 あるいは、心を解き放つことのできない自分の心というものに、心底から絶望する知れません。実はそれが心を解き放つことの、始まりなのです。そうしたパラドックスがどのような心のメカニズムとして前進するのかも、この本で詳しく説明しています。

 

 私たちの「意識」を超えて、心には一貫として成長し続ける「命」の力があります。最後にはそれに委ねることです。そしてそれを最大限に開放するための方向性を学んでいくことです。

 大切なのは、方向性を知り、それを歩み続けるということです。

 その先に、生涯終わることのない心の成長への道があります。

 

2009年6月

島野 隆

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