ColunmとEssay
2 心理障害のメカニズム
05 恋愛依存の心理 2003/04/19

 ネットで見かける心の病や悩みの相談の多くが、恋愛にからんでいます。

 健康な愛は、人生を最も豊かにする感情のひとつです。
 それにもかかわらず、人を愛することによってかえって不幸な状態になる、互いに傷つけ合ったり、何か自滅へ向かうような苦しみの中に没入して行ってしまう。これがどうも本人の心の歪みに関連しているらしいと感じたとき、それを「恋愛依存」という、心理障害のひとつの症状と捉えたりします。

 なぜこのようなことが起きてしまうのでしょうか。
 それをちょっと考えたいと思います。

 ひとことで言うとそれは、病んだ心が生み出した矛盾する感情が、同時に愛の中にその解決の出口を求めしまうからです。その時人は、彼彼女自身の心の問題を解決しない限り、愛の中で翻弄され苦しむ運命にあると言えます。これは「愛の複雑性」でも表現しました。

 愛は最初、彼彼女にとって、「愛し愛される勝利者としてさん然と輝く自分」を実現する世界であるかのような魅力を持って現れます。
 その時彼彼女の心の中には、愛による解決を求める次のような衝動があります。

 1)不幸感の対極にある「幸せになった自分」を実現しようとする要求。
 2)復習的な勝利とプライドへの要求。これは今まで自分を見捨てた異性への見返しとか、他の同性よりも優越することへの衝動です。強者感情をもたらすと言えます。
 3)感情的空虚を埋める要求。
 4)苦しむ自己を放棄して大きな存在に委ねること(プライドの放棄)への要求。これは弱者感情をもたらします。

 すぐ分かると思いますが、その中で端的に衝突するのが2番目の勝者感情と4番目の弱者感情です。
 このため、片方を自分の中では抑圧し、相手がその役割を担うことで、相手を通してその欲求を満たす、つまり役割分担をすることで平衡を保つという方法が良く起きてきます。極端な表れがサドとマゾです。
 この役割分担がうまく行けばいいのですが、うまく行かないと、とたんにガラガラと音を立てるように平衡が崩れていきます。

 勝利への要求が満たされないことは、自尊心を破壊し、自分が見下されたという怒りが生まれます。優しく愛される要求が満たされないことは、自分が見放された不具で無力な人間だという感情を生み出します。生き生きとした感情を全て相手に依存しようとしたため、相手が自分を見ない時、心の空虚は身を削るほどの強烈さで表面化します。
 「愛による解決」を求める姿勢が続いていると、このような破滅への恐怖から逃れようと、相手にすがりつく緊迫感の度合いが増して行きます。その姿は楽しみと喜びを共有する健全な愛からは遠く離れ、彼彼女が現実的に愛を得ることからますます遠ざけていきます。
 それでもなお愛にすがろうとする時、「破局」の足音が近づいています。

 愛は心理障害の中に潜む人格上の葛藤が表面化する係争ポイントと言えます。
 逆に見れば、人は愛の葛藤の中で、自分の心の中にある心理的な歪みに直面し、それを克服した健全で強い心を獲得するための、良い人生の課題を彼彼女に与えるものとも言えます。

 彼彼女に何かを示唆できるとしたら、まず、本来愛に求めることはできないものを愛に求めていたのだということを気づかせることでしょう。
 そして自分自身の中の問題に向き合い、人間的な成長を得ること、そして与えられるだけではない、与える中に喜びを感じる愛に出会うことで、本当の解決の道が得られるはずです。

 実際にこの悩みの中にいる人に、どんな風にカウンセリングできるものか..と思案しながら一筆しました。


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