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ハイブリッド心理学辞典
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歩みの学び
　歩み-１ 心の問題の仕組みとその克服

歩み1-1 「心の問題」とその克服の全体の理解
基本説明　　「心の問題」の構成要因（心の「闇」　　心の「病み」　　心の「浅はかさ」（思考一般）　　心の「浅はかさ」（「自意識」と「心と魂の分離」）　　心の「業」）　　「人生の歩み」に組み込まれたものとしての「心の問題」とその克服
心の問題の「組み込み」　　心の問題の「表面化」　　心の問題の「克服」
心の成長の節目道標と心の問題要因の根本克服（自己操縦心性の崩壊･･･「心の病み」の根本的克服　　「心の成長」への基本指針　　「否定価値の放棄」･･･「心の業」の根本的克服　　「成熟」への心の成長変化　　「心の成熟」と「魂の感情」　　「永遠の命の感性の獲得」･･･「心と魂の分離による心の浅はかさ」の克服　　.「超越的幸福」･･･「心の闇」の最終的克服　「望みの燃焼の法則」　　「心の問題」の全体の終結）　　過去ログ
 最終更新：2018.3.17
基本説明　↑
「心の問題」とは、ある人が置かれた現実の状況に対して、その人が不釣合いに不幸でいる、つまり不合理な悪感情や感情動揺の発生持続や膨張がある時、あるいは幸福の可能性へと向かうことができていない、人生を生きることへの無気力や不明、疑問を感じているような時、そこに「心の問題」があるということになる。そうハイブリッド心理学では定義します。
そうした「心の問題」についてのハイブリッド心理学からの理解は、以下のようになります。

・「心の問題」の構成要因
まず、「心の問題」を構成する要因を、いくつかの視点で考えることができます。
そこには、来歴での否定的感情体験を起因としたものと思われるものもあれば、万人に共通の、人間の宿命と思われるものもあります。
列記すると以下の５つです。
1.心の「闇」･･･心の奥底に、容易には取り去れないマイナス感情の塊が染みついてしまっている、あるいはマイナス感情の根源ができてしまっているもの。
2.心の「病み」･･･心の「健康」が損なわれた、何か病的な問題が起きていること。
3.心の「浅はかさ」（思考一般）･･･ものごとの深い本質を見る目を持たずに、表層だけを見て、的外れな思考をすること。
4.心の「浅はかさ」（「自意識」と「心と魂の分離」）･･･人間の「心」というものが、「自意識」の出現により、その大元の「命」からはがれた薄っぺらいものとして動くようになったという、なんびとも免れない人間の宿命。
5.心の「業（ごう）」･･･仏教用語で「カルマ」とも呼ばれる、「人間の宿命的不合理」。ハイブリッド心理学からは、「自分から不幸になろうとする傾向」がそれだと言えます。

・「人生の歩み」に組み込まれたものとしての「心の問題」とその克服
ハイブリッド心理学からの理解として重要なのは、「心の問題」が上記のような要因から構成されるとして、それはたとえば風邪を引いたり交通事故にあったりするように、「誰もがそうなりえる、いつそうなるかも分からない」というような、外部からもたらされる災禍の結果というよりも、「人生の歩み」に組み込まれたものなのだ、という考え方です。その克服についてもです。
つまり「心の問題」があるということが私たち人間の存在そのものの宿命であり、私たちの命をはそれを「課題」として生まれ、その「克服」は、「成長」として成されるのだ、ということです。

要点について、以下
・「心の問題」の構成要因
・「人生の歩み」に組み込まれたものとしての「心の問題」とその克服
にて簡潔に説明していきます。

「心の問題」の構成要因　↑
「心の問題」を構成する要因についてそれぞれ簡潔に説明すると、以下のようになります。

1.心の「闇」･･･心の奥底に、容易には取り去れないマイナス感情の塊が染みついてしまっている、あるいはマイナス感情の根源ができてしまっているもの。来歴での否定的感情体験を起因としたものと思われるものです。
ハイブリッド心理学では、特に幼少期の親や家族との関係の中で発生した、根深い否定的感情に着目をします。その内容とは一言で、「根深い自己否定感情」と「孤独感」です。そこに伴う「恐怖」や「外界への不信感」が、心の闇の問題の深刻度を特徴づけるものになるでしょう。

2.心の「病み」･･･心の「健康」が損なわれた、何か病的な問題が起きていること。
ここで、脳の機能的障害と思われる発達障害や学習障害、統合失調症などの症状そのものについては、ハイブリッド心理学としては考察範囲外になります。あくまで脳機能としては健康な中における、「心」の「病的」なあり方を考察します。
するとそれは、まずは「感情の荒廃」と「空想と現実の重みの逆転」という視点で捉えることができます。その先に、幼少期から思春期にかけて発動する、「根深い自己否定感情をバネにして描く「理想化された自己像」通りになるよう自分自身を操縦する、「真の自己」とは別の人格体」とでも定義できる、「自己操縦心性」とハイブリッド心理学が呼ぶ心理構造が生まれる。これがハイブリッド心理学の、心の病みについての中核理論になります。

3.心の「浅はかさ」（思考一般）･･･「浅はかさ」とは、ものごとの深い本質を見る目を持たずに、表層だけを見て、的外れな思考をすることです。
日常生活や人生の生き方および問題解決に際して、浅はかで的外れの思考にあふれているのが世の常だと言えます。それに流され、本当に確かな答えのために自分で考えるということができないと、問題の解決もうまくできず、味わう必要もないような不幸に向かうことも起きてきます。上記の、心の闇と病みの克服抜け出しも、見えようもないものになるでしょう。結果、人生への力強い向かい方など見えようもないのが多くの現代人の現状になるかも知れません。
「心の浅はかさ」は、「未熟」という言葉でも捉えることができます。ただし全ての生き物が「未熟」から始まることは当然なことであり、問題は、「未熟」にとどまる、あるいはしがみつくような思考や姿勢が起きることにあります。
これらはひとえに、多くの人が日常では論理的思考をせずに、感情でものごととを考えている、その結果、今の心の中だけで考えているのが原因と思われます。このためハイブリッド心理学では、「確かなことの積み上げ」で思考する「自分自身への論理的思考」を、心の健康と成長への歩みのための、最も基礎的な心の基盤として、極めて重視しています。

4.心の「浅はかさ」（「自意識」と「心と魂の分離」）･･･心の浅はかさというテーマではさらに、人間の「心」というものが、「自意識」の出現により、その大元の「命」からはがれた薄っぺらいものとして動くようになったという、なんびとも免れない人間の宿命がある、とハイブリッド心理学では考えています。
これによって私たち人間の心は、「命の重み」からは切り離された薄っぺらい「自意識」と共に動く「心」と、「命の重み」を伝えるための「魂」、そして大元にある「命」という３元構造になった、と。これを「心と魂の分離」とも呼んでいます。
これが人間の「心の問題」の原因である「浅はかさ」の大きな根源でもあると共に、心の豊かさと安定のゴールが、「“自分”というものはほんの仮りの姿」と感じ取る「永遠の命の感性」にあることの由来ともなる。これがハイブリッド心理学の根幹思想でもあります。

5.心の「業（ごう）」･･･仏教用語で「カルマ」とも呼ばれる、「人間の宿命的不合理」を指すものです。それが具体的に何かと言えば、「心理学的幸福主義」に立つハイブリッド心理学からは、「自分から不幸になろうとする傾向」のことに他ならないと言えるでしょう。
これは「価値観」の領域で起きる問題であり、「基本行動様式への価値観」における一つの不実な選択の極みだと言えるでしょう。ものごとの良い面よりも悪い面に目を向け、「怒り」を積極的に向けることに、自らを「神」の座の高みへと上げるほどの価値を感じるという、「破壊」の選択の極みとしてです。
問題はそれが意識表面の思考で自覚するよりもはるかに深い無意識深層で抱かれることです。これこそが人間の「心の業」の正体だとハイブリッド心理学では考えており、「否定価値感覚」（リンク予定）と呼んでいます。それにより、「怒り」が心身にもたらすダメージによる「不幸」を、積極的かつ恒常的に選ぶ心の状態になるのです。「怒り」が自らに向いた場合は、「不幸」の度合いもはかり知れないほどのものになるでしょう。

「人生の歩み」に組み込まれたものとしての「心の問題」とその克服　↑
「心の問題」は、人の人生に宿命として組み込まれ、生涯にわたる「成長」が、同時にその克服になる。
これがハイブリッド心理学の考えです。
この「生涯にわたる成長」がどのようなものなのかの大枠を、最初の全体−１　ハイブリッド人生心理学が目指すもので説明しました。それは「現実の世界」と「魂の世界」という、「２つの別の世界における豊かさ」へと歩むものであり、「自己操縦心性の崩壊」「否定価値の放棄」「永遠の命の感性の獲得」「超越的幸福」という、「４つの節目道標」を通り得るものになる、と。

「心の問題」に焦点を当てるならば、それを次のようにたどることができます。
３つの局面から整理することができます。心の問題の「組み込み」と「表面化」、そして「克服」です。
それぞれ一言にまとめるならば、ハイブリッド心理学の考えはこうなります。

　1.「組み込み」･･･幼少期において、否定的体験によって「心の闇」が、さらに人間の宿命として「心と魂の分離による心の浅はかさ」が組み込まれ、学童期に「思考一般における心の浅はかさ」が組み込まれます。

　2.「表面化」･･･人に心の問題があるであろう様子は、まずは思春期から青年期前半にかけて、人生を生きる様子が内面もしくは外面においてあらぬ方向へとそれる姿として表面化します。内面があらぬ方向へとそれるものは、幼少期に組み込まれた「心の闇」の深刻さに対応するものと考えられ、新たに「心の病み」の傾向という心の問題要因となります。
そのようにはっきりした様子ではなくとも、青年期後半以降、自分の人生の生き方に十分な納得感満足感を持てていないという姿も、心の問題の表面化と言えるでしょう。その底に、多くの人が抱えながら目には見えない、「心の業」という要因がいつの間にか存在するものになっています。

　3.「克服」･･･まずは「思考一般における心の浅はかさ」を脱する方向へと、感情に流されることのない基本的な思考法思考法や人生の生き方について学ぶのが全てのスタートであり、克服への基盤になります。その先に、心の成長の歩みにおける「４つの節目道標」が、心の問題の各要因の根本的克服に対応するものになります。

それぞれ下にて簡潔に説明していきます。
・心の問題の「組み込み」
・心の問題の「表面化」
・心の問題の「克服」
・心の成長の節目道標と心の問題要因の根本克服

心の問題の「組み込み」　↑
「心の問題」が人の人生に組み込まれるのは、まずは３つの形においてだとハイブリッド心理学は考えます。

１つ目は、幼少期における家族、特に親との間における否定的体験です。これは「根深い自己否定感情」と「孤独感」、そしてそこに添えられる「恐怖」や「不信感」といった「心の闇」の始まりとなるものです。これが起きる深刻さの程度は、人により大きく違いがあります。

２つ目は、やはり幼少期に芽生え始める、「空想」と「自意識」です。これはなんびとも免れ得ない、大元の「命」からはがれた薄っぺらい「心」という宿命の下で働き始めます。「心と魂の分離による心の浅はかさ」の問題がここで組み込まれます。
これがどのような「心の問題」としてあるのかは、もちろんこの段階では見えようもありません。それでも言えるのは、「心の闇」との結びつきです。子供の心の健康な成長のために完璧な環境などそうそうあるものではなく、ちょっとした不足や行き違いが、子心の「自意識」と「空想」の中で、現実に実際にあったこととは不釣合いな深刻さで「心の闇」の種として取り込まれることもあるかもしれません。
「自意識」はそれ自体、人と親密になるのではなく距離を置く意識の器（うつわ）として働きます。あるいは、「自意識」を持ったこと自体が、人間の「孤独」という心の闇の根源なのかも知れません。

人の人生で組み込まれる心の問題の３つ目は、「思考一般における心の浅はかさ」です。ものごとの深い本質を見る目を持たずに、表層だけを見て、的外れな思考をすること。それでは人生の力強い生き方も、そして心の問題全体からの抜け出しも見えようもないという、私たちの心のハンドルさばきの基礎の問題です。
ただしこれは、人間はもともと完璧な存在ではなく、ものごとの深い本質を見るというのももともとそう容易なことではありませんので、生涯を通してそこからの改善向上の歩みが重要になる、という話でもあります。気分感情に流される思考から、「本当に確かなこと」のつながりをしっかりと考える論理的思考へ、という基本的方向性の下でです。
一方心理メカニズム的には、心の問題の情緒的側面が組み込まれる時期として端的なのが上記２つのように「幼児期」であるとして、思考の問題側面が組み込まれる時期として端的なのは「学童期」つまり小学生頃の時期であることを特筆できます。
歩み1-2 心を病む仕組みとその克服でより詳しく説明しますが、心の「病み」は、幼少期の否定的体験によって心の「闇」としてその種が植え込まれ、やがて思春期に「病み」として表面化する、という流れが端的なものとしてあります。「学童期」には心の「闇」は概して心の中で「抑圧」され切り離され、表面的には心の問題の有無があまり見えなくなるという、いわば「潜伏期」が生まれる一方で、実はこの「学童期」に、やがては表面化する心の問題に、ただ流されていくか、それとも自ら克服に向かう方向へと転じることができるかという、自己方向づけの基礎となる「思考」の基本的あり方の種が、植え込まれるのだ、ということです。

具体的には、親や学校、そしてはば広くこの私たちが生きる社会文化が要因となり、成長に向かって生きる方向性を欠いた思考の種が、子供の心に植え込まれることが問題になる、と言えるでしょう。たとえば「心の基盤」として項目立てた中の、「自分自身への論理的思考」「現実科学思考」を欠いた、感情や気分で非論理的にものごとを解釈する思考など。
ただ、子供時代のこんな思考が問題という、より細かい分析議論は無用でしょう。重要なのは、これからどう前進するかです。それはハイブリッド心理学の取り組み実践の全てであり、「心の基盤」の項目については、小学校頃からの自分の思考がどうだったかを振り返って自身を確認しながら、取り組んでいくのがお勧めになります。

心の問題の「表面化」　↑
人が心に問題を抱えているであろう様子は、主に３つの形で表面化すると言えます。
まず２つは、上述のように幼少期から学童期にかけて心の問題が組み込まれるのに対応して、「思春期」から「青年期」の前半にかけて問題が表面化するものです。
人生を生きる様子が、明らかに、あらぬ方向へとそれていくものとしてです。一つは、内面において。もう一つは、外面において。

内面においてあらぬ方向へとそれていくものは、「心の病み」の傾向として、「心の問題」全体を構成する一要素になります。
それが表面化する様子とは、思春期を迎えた子供の心に、「ある日突然に」とも言えるような形で出現する「漠然とした不安」と、それを引き金にした、対人感情の混乱や、これからの人生を生きることへの不安や恐怖などの形で、まずは始まると言えるでしょう。それはやがて、「絶望感」や「希死念慮」にまで膨張するかも知れません。それを何とか乗り越えやり過ごして生き始めた個人は、以降、自分が何か心の闇を持った人間だという漠然とした自覚を抱えて生きることになるかも知れません。のちの人生で、「うつ」などとして病みの傾向が表面化した場合、たとえ本人があまりそうは自覚していなくとも、思春期にそうした最初の兆候があったのが、ほぼ例外のないことではないかとハイブリッド心理学では考えています。
「心の病みの傾向」が健康な心とは異なる本質的な要素、そしてその発動と解消克服について、ハイブリッド心理学では独自で明確な心理メカニズム理論を持っています。次の「克服」の中で簡潔に記します。

一方外面においてあらぬ方向へとそれていくものというのは、思春期あたりに（あるいは学童期においてすでに）その兆候が多少は見えるかもしれませんが、はっきりとその傾向が人の目に見えるようになるのは、それより少し後、青年期の前期あたりになるでしょう。
つまりそれは、まっとうな社会人生活に入ることができない姿としてはっきりするものです。暴力や犯罪の傾向を端的なものとして、反社会的行動、無気力による非就学や非就労、さらには家庭や近隣などとの頻繁なトラブル傾向といったものなどです。
これらについてさらに詳しい類型分類整理のような考察は、ハイブリッド心理学では行いません。どのようなケースにおいても、そこからの克服前進のアプローチは一貫して同じ内容の、取り組み実践の全体になります。

心の問題があることが表面化する３つ目は、漠然とした形をとるものであり、青年期後半以降に対応したものになるでしょう。
それは、生活は比較的順調なものに向かう中で、自分の人生の生き方はこれでいい！、という納得感満足感を持てていない、という姿です。人生なんてこんなものというやや投げやりな思いを抱くものから、生きるとは辛く苦しいことだという明瞭な厭世観念を持つものまで、人生を生きることへの何らかの否定的な観念を抱く姿です。そうして人生を生きることへ否定的な観念を持つ人の割合、と言うのならまだしも、それをさらに、これでいい！という納得感満足感を持てていない人の割合、と言うならば、あるいはそれが現代人のマジョリティと言えるようなものになるかも知れません。
そこにやはり、「心の問題」の表れがある、ということです。基本説明で述べたように、「心の問題」とは、置かれた現実の状況に対して十分に向かうことができていないことの要因を指すからです。同時にこれが、「克服」がどこにあるのかを示唆するものになるでしょう。

まとめておくならば、「心の問題」の５つの構成要因として、幼児期に組み込まれるのが「心の闇」そして「心と魂の分離によるの心の浅はかさ」、学童期に組み込まれるのが「思考一般における心の浅はかさ」であり、「心の闇」が深刻であったケースで思春期に「心の病み」が表面化するという流れで、４つが出揃います。
そして最後の構成要因である「心の業」は見えないまま、納得感満足感のいく人生の生き方を妨げる、という構図になります。
これが、ハイブリッド心理学の考える、私たち人間の「心の問題」の構造です。

心の問題の「克服」　↑
では、「克服」がどのようなものとしてあるのかに目を転じましょう。
まずはまさに、「心の問題」とは置かれた現実の状況に対して十分に向かうことができていないことだという定義が、その示唆になります。
つまりまずは、置かれた現実に向かって十分に、つまり全力を尽くして、生きることができるようになるのが、「心の問題」の「克服」なのだ、ということです。
「心の問題が見事に消え去った、優秀な心の状態」になることが、克服なのではない、ということです。恐らくは、そうした「優秀な心の状態」という類の観念自体が、「心の問題」が作り出した浅はかな思考だということになるでしょう。

心の問題の５つの構成要因から考えるならば、こうなります。
幼少期の否定的体験に始まり、そのマイナス影響の持続性が端的なものとなる「心の闇」について言うならば、まずはそのマイナス影響自体が「障害」なのではなく、それを理由に前を向くことができなくなってしまうのが「障害」なのだ、と言えます。これは島野の最初の著書である自伝小説『悲しみの彼方への旅』の「考察―病んだ心から健康な心への道の本質」の中でも述べたことです（P.347）。
前に向き前へと歩むことが生み出す「成長」が、同時に、やがてマイナス影響をも根底から消え去らせる「治癒」となります。これがハイブリッド心理学の基本的な考えです。それとは逆に、前に向けるためにはまずこのマイナス影響が消えなければ、と、マイナス影響ばかりにじっと見入り、前へと歩むことをやめてしまう。そうした、「闇」と「未熟」にしがみつく姿勢がありがちです。

その克服のために、「動揺する感情を克服したければ、まずは感情を鵜呑みに考えない」という自明の原則に立ち、「外面行動は建設的なもののみ行い、内面感情はただ流し理解することのみ行う」という「感情と行動の分離」の姿勢から始まる「取り組み実践」の全てがあります。
そこで実践するのは、「心の闇」を深刻に抱えた人の場合も、それをほとんど持たない人の場合も、一貫して同じ内容です。
まずはこれが、「思考一般における心の浅はかさ」という要因の克服への、直接的な取り組みになります。この世界を生き始めた中でどうしても身につけてしまう的外れな思考を一つ一つ脱し、外面の行動法から自己内面への向き合いにわたって、先人からの学びを豊富に取り入れた、叡智を学び実践していくことです。
まずはこれがスタートであり、生涯にわたって続けるものとして、ハンドルさばきの基本になります。

それによってまずは、「心の問題」とはと冒頭で定義した中の、その人が置かれた現実の状況に対して、幸福の可能性へと向かうことができていないという側面から、克服への全体的な歩みが始まることになります。まずは全力を尽くして向かうことができる姿へと。そしてやがて「心の問題」を大きく脱して至る幸福を、見出す姿へと。
それが、人が一生をついやして歩み得る「成長」の変遷としてある、というのがハイブリッド心理学の考えです。全体−１　ハイブリッド人生心理学が目指すもので説明したように、「現実の世界」と「魂の世界」という２つの別の世界における豊かさへの歩みを経ながら、「自己操縦心性の崩壊」「否定価値の放棄」「永遠の命の感性の獲得」「超越的幸福」という４つの節目道標を通り得るものとしてです。

そこにおいて４つの節目道標が、心の問題の各要因の根本的克服に、それぞれ以下のように対応するものになります。
・自己操縦心性の崩壊･･･「心の病み」の根本的克服（青年期）
・「否定価値の放棄」･･･「心の業」の根本的克服（壮年期前半）
・「永遠の命の感性の獲得」･･･「心と魂の分離による心の浅はかさ」の克服（壮年期後半）
・「超越的幸福」･･･「心の闇」の最終的克服（老年期）
下にてそれぞれを簡潔に説明します。

心の成長の節目道標と心の問題要因の根本克服　↑
「心の問題」の克服への歩みが始まるのは、まずは人生の生き方というものを意識し始め、そして現実において「社会で生きる」ということに直面する、青年期からになるでしょう。
ハイブリッド心理学の取り組みとしては、まずは「思考一般における心の浅はかさ」という要因の克服へと、感情に流されることのない思考法行動法と価値観による人生の生き方、そして心の仕組みについて学び、自分の生き方を方向づけていきます。
それがこの『辞典』で整理している「取り組み実践」の全てですが、それは学校で学ぶ科目のように勉強を頑張るほど先に進めるというものとは異なり、年齢も含めて人生の歩みの状況に応じた成長課題テーマによって、生涯を通して、自身の心のあり方について問うことのできる事柄が大きく様変わり変遷するものと理解しておくと良いでしょう。
４つの節目道標によって特徴づけられる変遷であり、心の問題の要因の根本的な克服に、以下のように対応します。

1.自己操縦心性の崩壊･･･「心の病み」の根本的克服（青年期）
浅はかな思考を脱しながら人生を前に進もうとした時、もしそこに幼少期からの深刻な「心の闇」によって思春期に発動した「心の病み」の傾向による妨げがあった時、この、「成長」への歩みの最初において通る可能性のある節目道標が、「自己操縦心性の崩壊」による「心の病み」の大きな治癒です。

「心の病み」の傾向とは、荒廃した悪感情に不合理に心が支配される様子だと定義できるでしょう。
その「発症」および克服解消について、ハイブリッド心理学ではかなり独自で明確な心理メカニズム理論を持っています。
それは一言でこのようなものです。まず幼少期の否定的体験に端を発する「心の闇」において、最も精神的動揺の激しい感情要素は、「組み込み」でも述べたように、学童期までは比較的単純な「切り離し」によって心の中で抑圧され、「何事もなかったかのような平静」が保たれるというメカニズムが働きます。それが思春期になると、人格形成に向かおうとする心身の変化により、もはや「切り離し」では済まなくなり、精神破綻を引き起こすかのような激しい動揺感情要素が無意識深層でくすぶる、「潜在的自己破滅によって脅迫され続ける心の状態」が出現してきます。それが、「現実覚醒レベル」の低下した意識状態、つまり半分夢の中にいるような、過剰な空想に心が支配されているような意識状態で動くのです。だから理性による制御が利かないのです。これが「心の病み」の傾向の正体となるメカニズムであり、「自己操縦心性」と呼んでいます。
一方その解消克服は、「現実」へと向かって生きようとする心の動きが空想上の自己破滅の可能性をとらえて起きる絶望感情を、現実において破滅はないという認識を保ちながらただ流すことによって、「今までの心が死に、新たな心が再生する」という「心の死と再生」として生まれる、というものになります。これを「自己操縦心性の崩壊」による治癒と呼んでいます。

実はこの「自己操縦心性の崩壊」と「心の死と再生」の心のメカニズムは、これ以降の心の成長の歩みにおいても極めて重要な役割を演じるものになります。
つまりそれが、「心と魂の分離による心の浅はかさ」という宿命によって、薄っぺらいものとして動く私たち人間の心が、根本からより健康で豊かなものへと変化するために用意された、メカニズムなのだということです。病的な自己破滅空想に追い立てられる心の激しい崩壊という様相から、「人の目」の中での幸福と不幸という空想に右往左往する心からの静かな脱皮という様相に変化しながらです。一貫して、薄っぺらい空想の中に生きる心を抜け出し、「命」のありのまま生きる力を開放して、ありのままの「現実」に向かって生きる方向へ。そこにこそ、自己の内部から「幸福感」が増大していく、「心の成熟」への変化があります。
より詳しくは、歩み1-2 心を病む仕組みとその克服および歩み-４ 心の成長変化のベクトルで、それぞれの視点から説明します。

・「心の成長」への基本指針
「心の成長」へのハイブリッド心理学からの最も基本的な指針は、内面感情の良し悪しに一喜一憂するのではなしに、揺れ動く感情をうまく包み込むような形で、外面において前へと進むことのできる価値観や行動法の知恵を模索し、それを実行していくことです。同時に、「心の成長」としてまず目指すのが良いのは、やはり何か優れた心のあり方になるというよりも、この社会を生きる中で、現実において行動やさまざまな問題解決、そして「仕事」がうまくできるようになること、それらを通して、「社会を生きる自信」を獲得することだということです。
なぜなら、そうした実際的な「成長」を経ぬまま、未熟な心の中でいくら「成長した心」「豊かな心」について考えようとしても、それはやはり未熟な心が映し出した、的外れなものになりがちだからです。そのため内面感情をすぐに良くすることに焦るよりも、まずは比較的すぐに答えが出る外面行動法の学びを主導にして、そこから再び内面感情に向き合うというアプローチが良い。

もちろんそこから「社会を生きる自信」の獲得までは、長い道のりになります。主導となる外面行動法をじっくり学ぶことから始め、その支えとなる内面価値観を「本心」から自分のものにするかの向き合いも経て、経験を積み重ねることによる行動法への習熟そして熟達へと歳月を積み重ね前進し、まずはこれが自分が人生で得たものだとい、いっぱしの仕事や人間関係を築く。まずは「壮年期」の前半まではこの道のりが続くでしょう。
そうして人生の歩みの半ばと、自らの「人生の実績」が見えてくる頃、同時に自分が「社会を生きる自信」を得始めていること、自分の人生の生き方への十分な納得感満足感、そして幸福感を感じられるのであれば、そこにはもう「心の問題」というものは存在しなくなっている、と言うこともできるかもしれません。その正体とは、そしてその克服とはどのようなものかについて、あまり意識的な探求はしないまま･･。
これが、ハイブリッド心理学の「取り組み実践」の先に歩み得る、一つの道だと言えるでしょう。

もう一つの道もあります。それは同じように「社会を生きる自信」が見え始めるところまで来ながらも、内面に深い妨げが残されており、幸福感が阻害され続けているのを自覚するケースです。これは、幼少期からの「心の闇」を抱えた度合いがある程度以上深刻だったケースということになるでしょう。
この場合、それまでに築いた外面的な前進を安全弁のような足場にして、残された心の問題の心底の核心へと、深く切り込んでいくような意識的な探求がなされる道が開かれ得ることになります。それにより、心の問題の要因の意識的な突き止めと根本的な克服が見出されることにより、「心の闇」を抱えることなく比較的順調に人生を歩めたケースをむしろ凌駕するような「幸福」を、人生の歩みの終盤になって得る可能性がある。
これがハイブリッド心理学が見出した歩みであり、逆境を経てこそ真の幸福が得られるという人間の真実の一面だと言えるでしょう。島野自身が歩んだ道のりがこれであり、それによってこの心理学を整理しているゆえんでもあります。

ただこの２つの道が明瞭に分かれると考える必要はないでしょう。重要なのは、私たちの心が、人生の歩みに応じてどのような幸福を得る可能性があるのかという、心の仕組みの理解です。
もちろんそれは、いかに恵まれたものを「与えられる」かに大幅に左右されるという幼少期から始まるでしょうが、そうした「未熟」の中だけで考えていると、「成長」と「成熟」を通して得られる心の幸福に自ら背を向けブロックするという形で、まさに人生の幸福を見失ってしまいます。
成長成熟による幸福とは一言で、外部から何かを与えられることによって湧き出るのではなく、自分自身の内部から湧き出るようになる幸福です。それは全体−１　ハイブリッド人生心理学が目指すもので「根本原理」として述べた、「依存の愛から旅立ち、自立の自尊心を経て、成熟の愛に向かう」という「命の生涯」の変遷の中で生み出されるものです。そこに２つの道として、一つに外面的な前進の内容の変化として開花する側面と、もう一つに内面的な深い妨げの正体の突き止め克服の「悟り」の深まりへと結実する側面があるということです。
この２つの道を、人それぞれの唯一無二の交わらせ方において歩むのが、ハイブリッド心理学の「取り組み実践」を携えて歩む人生の道のりだと言えます。

そのように、「思考一般における心の浅はかさ」と「心の病み」の克服というスタート以降に残された心の問題の要因の根本的克服は、「依存の愛から旅立ち、自立の自尊心を経て、成熟の愛に向かう」という変遷と共に、内面の深い妨げに向き合う歩みの中で生まれ得る、というのがハイブリッド心理学の考えになります。短期間で習得する意識法のようなものとは全く違う、まさに人生の歩みそのもののようなものとしてです。
これらの歩みの流れについて詳しくは「歩みの学び」の全体で説明します。以下では、残された心の問題の要因の根本的克服が、そうした流れの中でどのように位置づけられるのかの要点を記しておきます。

2.「否定価値の放棄」･･･「心の業」の根本的克服（壮年期前半）
ハイブリッド心理学の取り組みにおいて、「否定価値の放棄」の節目道標が、「自分から不幸になる」という「心の業」の根本的克服に対応します。
これは２つの位置づけから捉えられるものになります。
それは一つに、ハイブリッド心理学における「実践」つまり「実践の学び」として説明している実践項目の全てが、ここでほぼ完全な「習得」になるということです。
そしてもう一つにそれは、「依存の愛から旅立ち、自立の自尊心を経て、成熟の愛に向かう」という「命の生涯」の変遷における、「自立の自尊心」の獲得に対応する節目だということです。
つまりそれは、大自然を生きる若き獣が、親に守られて生きる存在であることから、自分の力で生きる能力と自信を獲得し、今度は自分が子供を守り育て得る側の存在になったことを自覚する、それと同じ節目における、この世界を生きることへの大きな意識転換なのだということです。
なぜなら、「自分から不幸になる」という「心の業」の根核にあるのは、私たちが「未熟」の中で、「弱さ」に立って心の底に築きあげた、最も平たい言葉で言うならば「究極的な強がり」の衝動とでも言うべきものだからでです。「正しければ人と世界が自分に良くしてくれるべき」という「依存の世界観」の中で、ものごとの悪い面にばかり目を向けて怒り嘆く自分の「能力」に、自分が「神」の座にあると感じるまでの価値を置く。それが「心の業」の正体だとハイブリッド心理学が考える、「否定価値」と呼ぶものです。
無意識化したその根底衝動を、獲得し始めた「社会を生きる自信」を足場にして、「真の強さ」とは何かというテーマへの向き合い、さらには「信仰」の領域への向き合いも加え、精緻な「自己分析」を通して、その衝動の存在と不合理を自覚し、心の根底から捨て去る。これが「否定価値の放棄」の節目道標です。

「否定価値の放棄」により「ものごとの悪い面にばかりに目を向ける根底衝動」が捨て去られることで生み出されるのは、自己肯定感、そしてこの世界を生きることへの肯定感の、劇的な改善向上を中核とした、心の境地の劇的な改善変化だと言えるでしょう。
それは健康な心が本来持っている、人生を前に向かって生きる、「命」本来のエネルギーの、心の根底における開放でもあります。車の運転で言えば、それまではブレーキをかけたまま車を走らせようとするようなことだったわけです。「生きる」とは常に、必要以上の力みとストレス、そして軋（きし）みと不快を伴うものになったようなものとして。ここからは、かけたままのブレーキからはもう開放された軽快な走りで、自分が本当に行きたい場所に向かってドライブする、人生後半の歩みが開花します。それまで時に「うつ」や「無気力」にもさいまなれた心も、もはやそうしたものとは無縁な、充実した毎日を送る心へと一変するでしょう。島野の場合がまさにそうでした。
こうした「否定価値の放棄」の節目道標について、その「悟り」とも言える自覚の内容について実践-６ 「否定価値の放棄」の根本的選択にて、またその人生の歩みの変遷における位置づけについて歩み-５ 人生の歩みと最終的克服で、詳しく説明します。

ここで再び、上に述べた「２つの道」が合流する形になります。まず外面行動法の学びを主導に「社会を生きる自信」を目標に歩むのは同じであり、その獲得が見え始めると同時に自分の人生の生き方への納得感満足感を感じることができるケースと、なお内面の深い妨げが続くのを感じるケースと、少し道が分かれるというものです。
「否定価値の放棄」の「悟り」が開かれる可能性があるのは、まずはその後者の道においてになるだろう、ということになります。それにより劇的にプラスの感情と前進へのエネルギーを回復させた心で、文字通り心も新たに人生後半へと、閉ざされていた人生を挽回しようと奮起する歩みは、それまでに培った外面行動法と、獲得し始めた「社会を生きる自信」を大きなテコにして、ほどなくして、「心の闇」をあまり抱えることなく生きることができた人々にも勝り得るような、人生の充実と満足を見出すのが間違いないでしょう。それが外面的にも何か大胆な転身を果たすような姿になることもあるかもしれません。島野がＩＴ企業に勤めるのを辞めて執筆を開始したのがまさにそうでした。
もちろんそうした社会的転身というのは、２つの道のどちらかに限定されることなく、「社会を生きる自信」が見えてくる「壮年期」に、それを足場により価値の高い活動を模索することで至る、という人間事例を良く目にするものです。

・「成熟」への心の成長変化
ハイブリッド心理学の「取り組み実践」としては、「否定価値の放棄」が「ひとまずの習得達成目標」となり、それ以上新たな「実践習得事項」は出てこない形になります。そうして習得済みの外面行動法や内面向き合いを続けていくのです。生涯にわたってです。
外部から与えられるものとしてよりも自分自身の内部から湧き出るものとしての幸福感が増えてくる「心の豊かさ」が増大していくのは、ここからです。
「否定価値の放棄」の「悟り」へと至る可能性があるような、内面の深い妨げへの向き合いを必要とはしなかったケースにおいても同じく、「心の豊かさ」の増大の道は、「社会を生きる自信」から先に続くものになるでしょう。
つまりこれは、「心の豊かさ」とは車の運転で言えば、車の運転技術にいかに習熟するかの問題ではなく、自分が本当に行きたい地へと、どのように向かい至るかの問題なのだということです。「人の目」の中にある教習所から外に出て、次第にそれが意味を失っていく、自分の唯一無二の場所にです。人に教え導かれ得るものではない、それぞれの人にとって未知の自分へと変化していくものとしてです。

それに向かうために私たちにできることは、「心の成熟」の変遷への視野を得ながら、あくまで目の前の一歩一歩の前進を地道に積み重ねていくことだけです。それが、「外面行動は建設的なもののみ行い、内面感情はただ流し理解することのみ行う」という「感情と行動の分離」の姿勢と実践を携え、全てを尽くして「望み」に向かう、というハイブリッド心理学の一貫した「取り組み実践」に他なりません。
「心の成熟」の変遷へのハイブリッド心理学からの視野とは、それが「依存の愛から旅立ち、自立の自尊心を経て、成熟の愛に向かう」という「命の生涯」における、「成熟の愛に向かう」という最終局面の変遷としてある、というものになります。
それは私たちの意識努力を超えて、「命」が私たちの心を変化させるものとしてあります。つまり私たちは「成熟した心」を、「心の持ちよう気持ちの持ちよう」として自分に「こう感じるようにしてみれば」などと枠はめするのはできない一方で、「全てを尽くして望みに向かう」という歩みを積み重ねる中で、自分の心が次第にそのような変化を遂げてきていることに気づく、という形でのみ、それに向かうことができる、ということです。そうした「気づき」のために、「視野」を持っておくことが大切だということでもあります。

２つの視野を持っておくと良いでしょう。「心の成熟」の変遷とはどのようなものかという内容そのものへの視野、そしてそれがどのように生み出されるのかという心の仕組みへの視野です。
それは全ての「命」というものへの視野、そしてその中における「人間」という特別な存在への視野ともなります。
「心の成熟」の変遷とは、上述の通り「命の生涯」の最終局面となる「成熟の愛に向かう」という変遷です。それによって「望み」と「幸福感」の感じ方が、「与えられる」ことから「自ら生み出し与える」ことへ、そして「やがてもう何も躍起に求めることなく豊かな感情に満たされる」という心の境地へと変化する、というものです。
そこでは「自発的不幸」から「自発的幸福」への変化という流れが働いているのを見ることができます。外部から特別に満足を与えられない状態において、自己内部から湧き出る感情とは、「未熟」においては「不幸感」が伴うものであり、「成熟」においては「幸福感」が伴うものへと変化する、という流れです。
それは全ての、子供を生み育てる動物の「命」の摂理だとハイブリッド心理学は考えます。動物の意識においてそれは、「命をつなぐ」という根本目的に支配された、「愛」という単一軸下にある「望み」へと、文字通り「命」の重みにおいて生涯の歩みとして向かうことで発動される、命のDNAに組み込まれた変化のプログラムなのだ、と。
無論人間においてもこの命の摂理が働くはずですが、実際にはそうした「心の成熟」の変遷などまるで無縁なように、未熟な心のまま一生を終えるという姿が、現代人の多くのようにも思われます。
まさにそれが現代人の「心の問題」なのだ、ということになるでしょう。要因としては、まず「思考一般における心の浅はかさ」によって、未熟な思考と生き方姿勢の中にとどまる、もしくは柔軟性を欠いた思考と生き方姿勢で枠はめされた自己のまま生きるといった姿が、人間全体の文化とも言え、そしてより根本的に、「心と魂の分離による心の浅はかさ」により「命」からはがれた薄っぺらいものとして働く私たち人間の「心」には、そうした「命」の本来の作用が働きにくいという、なんびとも免れ得ない宿命があると言えるでしょう。

・「心の成熟」と「魂の感情」
そうした状況にある人間の心において、「心の成熟」への鍵となるのが「魂の感情」です。
「魂の感情」とは一言で「自意識の薄れた根源的感情」であり、その中で「壁に出会う中で現れる根源的な望みの感情」が「魂の望みの感情」です。
そしてこの「魂の望みの感情」を、「心」が前を向く姿勢の中で受けとめ尽くした時、劇的とも言える「心の成熟」作用が起きるということを、ハイブリッド心理学は見出しています。「外面行動は建設的なもののみ行い、内面感情はただ流し理解することのみ行う」そして「全てを尽くして望みに向かう」というハイブリッド心理学の「取り組み実践」の真髄が、まさにここにあるとも言えます。

「未熟」から一足飛びに完成した「成熟」へと変わるとは考えない方が良いでしょう。まず言えるのは、人生で折りにふれ「魂の望みの感情」に向き合った人間が、生涯で深い「心の成熟」の変遷を成す。まずはこれが間違いないことであろう、ということです。
そしてもう一つ、「魂の望みの感情」に「心の浄化」の作用があるということです。つまり人生での何らかの不遇や不運の中で、「自意識」も働いてすさんだ、あるいはささくれた、あるいは混乱した心が、自分が本当に望んだものは何だったのかに失意を超えて向き合い「魂の望みの感情」に出会った時、劇的に混乱の消えた、純粋で澄んだ心へと変化するというものです。そこには確かに、「未熟」から「成熟」への劇的な変化の一歩があり、私たちが人生で体験し得る心のドラマの一つの原型になるものと言えます。
ハイブリッド心理学はそこにさらに別の鍵があるのを見出します。まさにそのすさんだ心と「魂の望みの感情」の別世界さ、そしてそれへの向き合いを経て、意識努力を超えて変化していく自分の自覚といった経験を積み重ねることで、やがて、自分の中にある、「自分」とは別のものとしての「魂」そして「命」の存在が感じ取れるようになってくる、というものです。
他なりません。ハイブリッド心理学の「心と魂と命」という心の三元構造の思想は、「霊魂」についての超常現象思考などとは全く異なる、実体験に基づく科学的思考整理によって、生涯にわたり「取り組み実践」を続けた島野自身の心の変化の分析から導き出された結論です。そしてそれが人間の太古から伝えられたさまざまな言葉とあまりに符号しているのを見た時、そこに真実があるのであろうことを、確信できるものです。

「魂の感情」については歩み-３ 「魂の感情」で、「心の成熟」の変遷については歩み-４ 心の成長変化のベクトルでより詳しく説明します。
ここでは引き続き、「心の問題」の根本克服についてのハイブリッド心理学からのサマリーを続けましょう。
するとここでまた少し道が分かれると言えそうです。人生後半の心の成熟の歩みにおいて、外面的な前進を比較的順調にその生涯で進めることできたケースと、何らかの深い壁への向き合いが続くことになったケースとです。この壁は外面的なものなものであることもあれば、内面的なものであることもあるでしょう。
つまり人生には壁がつきものであり、その大きさはさまざまです。そこで折りにふれ「魂の望みの感情」に向き合うことができた人ほど人生で深い「心の成熟」をたどるであろうとして、壁が比較的大きなものではない場合は、「魂の望みの感情」への向き合いも比較的浅いものになる、結果、「心の成熟」の変化も比較的緩やかなまま生涯を終える、というのが一つの形として考えられる、ということです。「心の問題」として残されたものは何であったのか、そしてその根本克服はどのようにあるのかといった命題は、あまり見えなくなるまま･･。
これは自分の内部から幸福感が湧き出るようになるという「心の成熟」としては比較的弱いのですが、その分外面的な満足による幸福感が得られるケースですので、これはこれで良いのです。
一方人生での壁が大きく深い場合、外面的な満足による幸福感は当然妨げられる一方で、「魂の望みの感情」への深く大きな向き合いが、その都度、この人に「心の成熟」の飛躍的な一歩を生み出していく道が開かれ得ます。
その先にあるものとは何か。

島野が歩んだのは、後者の道でした。そしてその先に、「否定価値の放棄」を過ぎてこの心理学の執筆に転じた私自身でさえ予想だにしなかった心の変化を経て、残された「心の問題」の要因とその根本克服の形をはっきりと捉えるものになったのです。
「心の問題」の要因として５つのものをあげ、そのうち根本克服の形がここまでに示されたのは「思考一般における心の浅はかさ」と「心の病み」そして「心の業」の３つであったことを思い出して頂ければと思います。
残された「心の問題」の要因としてまず「心と魂の分離による心の浅はかさ」という万人の宿命が、「永遠の命の感性の獲得」とハイブリッド心理学で呼ぶ節目道標により根本克服されるという形になります。
最後に残るのは「心の闇」です。そこで最後まで残るのは、「人間」という孤独な存在としてこの世に生まれ出てしまったことへの悲しみ、とでも言える感情要素かも知れません。
それも「超越的幸福」という最後の節目道標により根本克服されるという形になります。
詳しくは歩み-５ 人生の歩みと最終的克服で説明します。以下に、そのごく輪郭を記しておきましょう。

3.「永遠の命の感性の獲得」･･･「心と魂の分離による心の浅はかさ」の克服（壮年期後半）
「永遠の命の感性」とは、「“自分”というものは、大きな“命のつながり”の中の、ほんの仮りの姿にすぎない」と感じ取る感性であり、その獲得が、ハイブリッド心理学の取り組み実践による人生の歩みにおいて「否定価値の放棄」に次ぐ３番目の大きな節目道標になり得るものと考えるものです。これは壮年期の後半以降のものと位置づけています。
それによる心のあり方の変化とは、自らの人生への惑いと怖れの劇的な消滅です。
当然です。私たちの人生での惑いと怖れの大きな一因が「こんな自分になれれば」という願望への、「なれなければ」という執着、囚われ、そしてストレスにあるからです。それが劇的に消滅するからです。なにせ、「“自分”というものはほんの仮りの姿」なのですから。

これを理解する上でまず重要なポイントは、これがあくまで「感性」のことを言っているのであって、「思考法」のことを言っているのではない、ということです。
つまり、そう考えることで惑いと怖れが消滅する、あるいは消滅させるためにはそう考えるといい、のではない、ということです。もしそうした「思考法」のことを言っているのであれば、「実践の学び」の方に出てくる話になります。
そうではなく、何をどう考えるかの前に、惑いと怖れが消えている。だからそれを「感性」としています。で、それは何をどう感じているということかと自分の心を覗いてみると、それは、もう「“自分”とは仮りの姿」だと感じているということなのだ、と自覚するのです。
「否定価値の放棄」も多分にこうした「感性」レベルの話ですのでご注意下さい。それは「否定することに価値を置くのをやめよう」という意識思考よりはるかに深いところで、否定することに価値を感じるような心の動きが完全に消滅するものを言います。

となると、どうすれば、そしてどのようにしてこの感性へと至るのかに、理解の重点が移るでしょう。
島野の経験ではそれは、取り組み実践の歩みの先に、「命」の重みある「愛への望み」に向かう歩みと、「怖れの克服」という人生を貫く課題への歩み、この２つの歩みが合流、収束して一つの答えが出されたようなものとして訪れました。
つまり人生の半ばに到達した「社会を生きる自信」と「否定価値の放棄」を足場に、果たされないままでいた、「人生で最も大切な愛」に近づく一歩へと向かうという流れになります。それは同時に、それまでの心の成熟への歩みの中で、自分の中にある、“自分”とは別のものとしての「魂」の存在が十分に感じ取られ始めていた段階です。
そこで私は感じ取るのです。そうして「人生で最も大切な愛」に近づこうとして最後に残る怖れとは、今までにその大部分を克服することができた、「現実の世界」で心が抱く怖れとは異なる、「魂の世界」における「魂の怖れ」であり、「命のつながり」によって「愛」が守られることを「魂」に伝えた時、それが消えていくのを。
これを機に、私の心は劇的に平安を増したものになりました。そしてその劇的平安を、今何をどう感じているのかと言葉にするならば、「“自分”とは仮りの姿」というものであり、これを「永遠の命の感性」と呼ぶことにしたのです。
このように、これは「思考法」さらには「心の持ちよう」とは別次元のものだということです。そこにどう至るのかは多少とも人による違いも考えられ多分に未知数ですが、生涯をかけた成長の歩みの一つの終着点の形で見出すという形で、壮年期後半以降の節目になるものであろうと考えています。

ハイブリッド心理学ではこの「永遠の命の感性」の獲得を、それにより心自らに「心」と「魂」と「命」という３つのものが自覚される形でそれぞれが役割を十分にまっとうするようになることにおいて、「心と魂の分離による心の浅はかさ」という人間の宿命の要因の根本克服に相当するものと考えています。
その３つの分離状態そのものがなくなるという形は考えていません。それは残念ながら、人間の脳としての機能を何らかの形で損なったもののような話になるでしょう。
「心」そのものは薄っぺらく浅はかなもののままということになります。「心」自身がそれを分かり、かつそれを補うものを持つという形になります。補うものとはもちろん、自分の中にある「魂」と「命」です。

これは同時に、もう一つ残された問題要因である「心の闇」が、ここでもまだ根本克服にはならずに残る可能性を示唆すると言えるかも知れません。
つまり心がもしその出生に際し深いマイナス感情を体験したのであれば･･実はそこにこの人間をはっきりと傷つけようとする外的要因はあまりなかったかも知れないとしても･･、脳が健康である限りその記憶は深いところで保たれ、それを十分に補うような外面的満足が得られなければ、残りの人生におけるこの人の幸福感も、それにより妨げられ続けるかも知れません。
2009年に『入門編下巻』をもっておおよそこの心理学の体系をまとめあげた時、島野自身に見えていたのは「永遠の命の感性」の獲得までの歩みでした。
そこからさらに8年の歳月を経て、もう一つ別の節目があり、そこで残された「心の闇」も根本克服され消滅することが、見えてきたのです。

4.「超越的幸福」･･･「心の闇」の最終的克服（老年期）
「超越的幸福」は、ハイブリッド心理学の取り組みの歩みの先にある、４つ目そして最後の節目道標として位置づけるものであり、一言で、外部から特別な満足を与えられる必要なく幸福感が湧き続けるようになる、という心の境地です。
鍵は「魂の愛への望みの感情」とハイブリッド心理学が呼ぶものにあるようです。これは「魂の望み感情」の中で「愛」への望みについてのものであり、人生で叶えられることのなかった、最も純粋な愛への望みの感情として、基本的に深い「失意」と「悲しみ」の形を取るものです。
「美しい情緒性」を持つとも言えるその感情を心の中で受けとめ尽くした時、不思議とその人間の心に、むしろ来歴において愛を満たされた人のものであるかのような、穏やかな豊かさの感情が芽生えてくる。「魂」のその愛への願いの感情を看取った時、「魂に魂が宿る」とでも表現できるような心の豊かさの感覚が生まれる、というものとしてです。

「超越的幸福」は、折りにふれて「魂の愛への望みの感情」に向き合った人生の歩みが至り得る、一つの終着駅のようなものだ、とハイブリッド心理学は考えます。
それは喩えるならば、コップを水が満たす様子のようです。水が満たされあふれたものが「幸福感」として感じ取られるとして、私たちの幸福感は、ものごとがうまくいったり良いものを得たりとはっきり外面的な成功によるものにせよ、結果をあまり問わないやりがいのような比較的内面的なものにせよ、基本的に「自分」と「外部のものごと」との関係で生まれると思います。コップに外部から水が注がれるように。それが妨げられた時、コップは満たされず、幸福感も湧かない状態です。
しかしそうした中で、「魂の愛への望み」への向き合いを行うごとに、外部からは水が注がれないまま、コップの底から水が染み出たかのように、水の量が増えているのです。しかしコップはまだ途中までしか水がなく、幸福感は湧かない状態です。
しかしそれを積み重ねたある日、外部から注がれることなく、コップを水が満たしあふれ出すのです。
それは外部のものごととの関係には拠らない分、実に味わいある幸福感です。56歳の2017年に島野がはっきりと感じ取るようになったその実感的表現を記すならば、「満足のいく一日の終わりにビールを口にしようとした瞬間の幸福感」が、「出っぱなし」になる、という感じです。朝目覚めた時から、夜眠りにつく時まで。その中で執筆などやりがいあることをしながら過ごせる日々に、なんて幸せなんだろう、自分がこんなに幸せになるなんて、と軽い驚きも感じるのです。

・「望みの燃焼の法則」
もちろん島野の場合まだそれが365日続くものではありませんし、感情の仕組みとしても、「魂の愛への望みの感情」への向き合いの積み重ねだけでそうなるのではなく、あくまで人生の前進の全体において、全力を尽くすことができた、そしてその成果としても将来にわたり衣食住など生活基盤における不安を大方取り除くこともできたといった、人生の基本的満足感と安定の土台の上でのものになるだろう、と考えています。
それでも「魂の愛への望み」への向き合いの彼方に「超越的幸福」があるという方向性に、間違いはないだろうと考えています。ある一つの、極めて単純な法則の作用によるものとしてです。

それを「望みの燃焼の法則」と呼んでいます。つまり「望み」の質的性質が「与えられる」ことから「自ら生み出し与える」ことへ、そして「やがてもう何も躍起に求めることなく豊かな感情に満たされる」というものへと変化するという「心の成熟」は、その「望み」を心の中で燃え上がらせるという、ごく単純にその量ごとにそう自動的に推移変遷するよう「命」に組み込まれている、というものです。未熟段階における「望み」が「済み」、より成熟した段階の「望み」へと推移変化するものとして。
この「量」とは、心の中でそれを感じる強さと深さと時間の累積のようなものとしてです。

人間の場合この作用があまり働かないのだ、という話になります。「心」が大元の「命」からはがれた薄っぺらいものとして動くという、万人が免れない「心と魂の分離による心の浅はかさ」という宿命によってです。それにより私たちが日常感じ抱く「望み」というのは、それをいくら心の中で燃やしたところで「心の成熟」に結びつかず、場合により「未熟」の深追い、さらには人生の道をそらしてしまうような浅はかなものへと変質してしまっているのです。
それを踏みとどまり、行動法や価値観の変革を通して、心の成長成熟に向き得るようなものへと、「望み」を醸成し直すことに、ハイブリッド心理学の取り組み実践の最大の主眼があるとも言えます。
「自己分析」の真価もそこにあるわけです。動揺の底で自分が望んでいるのは何かを問い、前進の再方向づけにつなげるというのが基本になりますが、人との関係での「望み」であれば、感情がどのように「愛」への純粋な望みから、「自意識」も絡みながら変形していったのか、自身の来歴の記憶をたどるような実践が極めて有益です。その先にやがて、遠く響いてくる鐘の音のように、「魂の愛への望みの感情」が姿を見せるかもしれません。それを、心の中で受けとめ尽くすのです。

・「心の問題」の全体の終結
そうして「魂の愛への望み」への向き合いの積み重ねの先に「超越的幸福」があるという流れの、「心の問題」の根本克服の観点からの位置づけとは、一言で、「望みの燃焼の法則」への回帰による「心の問題」の全体の終結だと言えます。

つまり、「心と魂の分離による心の浅はかさ」によって大元の「命」から遠ざかった私たち人間の「心」は、望みに向かい叶えられ満たされることでは「望みの燃焼の法則」が働かず、望みに向かい壁に出会うことで「自意識」が打ち破られ、つまりそれまでの「心」が打ち破られ、「魂の望み」に接した時に、作用するのだということです。ここでの「望み」とは、「依存の愛から旅立ち、自立の自尊心を経て、成熟の愛に向かう」という「命の生涯」を単一軸として貫く、命の重みのある「愛」への「望み」としてです。
すると不思議なことが起きます。「魂の愛への望みの感情」は壁に出会う中で感じ取られるものであることにおいて、基本的に深い「失意」と「悲しみ」の色合いのものなのですが、その裏で、「自発的幸福」が増大した心の状態が準備されるのです。心の中で「失意」と「悲しみ」を受けとめる時間を過ぎ、しばらく時間を置いてから、この新たな心の状態が自身に自覚されることになります。これがやがて、「超越的幸福」として心にあふれ出す時が訪れる、ということになります。

ハイブリッド心理学はそこに、私たちの心の悩み惑いの克服への原理になるものとして、あまり語られることのないもう一つの柱があるのを、見るのです。実はそれこそが最も堅固盤石の柱のようにも思われるものとしてです。
「望み」が「済む」、「済んだもの」へと推移変化することによる、悩み惑いの消失という原理です。
これについて印象的な体験が、島野の取り組み途上においても良く起きています。人に近づきたい気持ちと不安定な感情の中で悩み、安定した心になればもっと人に愛されるのに、という惑いの中で取り組むのですが、「魂の愛への望みの感情」への向き合いなども経て動揺が消えると、それは「こうであったら」と空想したような状態への改善でもあるのですが、それによってもっと人に愛されたいという衝動も同時に、不思議ともうなくなっているのです。「済んだ過去の望み」であるように。これが何度も起きています。
そもそも私たちが悩み、動揺するのは、何かを望んでいるからです。その大元の望みが消えれば、当然悩むことも動揺することもなくなる、というわけです。
だからと言って悩みや動揺から逃れようとして「望むのはやめよう」と望むことを否定するのは、「自分に嘘をつく」という、「病み」を加えるだけのものにしかならないでしょう。私たちにできるのはこの逆であり、あくまで「望み」へと全力で向かうことです。外面において行動法の知恵を学び実践し、内面においては望みの歪みを解きほぐしながら。その心の叡智を携えながら「望み」へと全力で向かうことで、「望み」が叶えられるという「幸福」に近づく可能性も高まるでしょうし、もしそこに壁があったとしても、最終的にいつか、心が「全てを尽くせた」ことへの満足と充実感に満たされるという、もう一つの「幸福」が訪れ得るのです。これが一つの「望み」の変遷推移のサイクルだと言えます。

この「望みの変遷推移のサイクル」の最大のものが、「命の生涯」に他ならない、ということです。命の重みにおける「愛」という単一軸の望みにおいて。一つの命に、その生涯をかけ、たった一つあるサイクルとして。
私たち人間の「心の問題」とは、あまりにも発達した脳の機能により、この「愛への望み」から心が引きはがされるという宿命にあるのでしょう。これを思う時、「心の問題」とはイコール、「人間の問題」なのだという感を深くします。
それでも、この問題の最終的な終結へと至る道が、「望みのサイクル」を生み出し支配する、最も単純な「望みの燃焼の法則」に残されている。人間の場合、「愛」への望みが安易に叶えられ満たされることによってではなく、壁に出会い失意を超えて向き合うことで訪れる、「魂の愛への望みの感情」の燃焼によって働く形でです。
その積み重ねの先に、命の重みにおける「愛」への望みが、その全サイクルを燃やし尽くされ、「超越的幸福」の訪れと共に、終結する時が訪れるのだろう、と。「老年期」という段階に対応したものになるのでしょう。
そうして「愛」への望みの全体が完了終結することで、「心の問題」も終結するということになります。この時同時に、「人間の問題」も終結するのだ。そう感じます。

どうすればそこに向かうことができるのか。
お分かりだと思います。そこまでの歩みの全てを通して、一貫して、「心の持ちよう」などではない、「外面行動は建設的なもののみ行い、内面感情はただ流し理解することのみ行う」という「感情と行動の分離」の姿勢と実践を携え、全てを尽くして「望み」に向かうという「取り組み実践」を、日々、そして人生を通して、積み重ねていく。それだけなのです。

過去ログ
歩み1-1 「心の問題」の全体の理解　2017.3.28更新版（変更部分）
「心の問題」の克服への歩みについて、「心」と「魂」と「命」のそれぞれが導く３つの通り道というイメージで説明しています。これは本記事で説明している、比較的順調な外面的前進と壁に出会う中での内面的前進という２つの流れに、最初の１つとあとの２つが対応しています。
それを通し、「心の問題」の克服がどのように「依存の愛から旅立ち、自立の自尊心を経て、成熟の愛に向かう」という「命の生涯」の変遷に対応しているかを、本記事よりも凝縮した（その分粗い）形でまとめています。

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