心理障害の感情メカニズム
1 一次心理過程
1.2 強迫的な3種類の態度

(5)離反型態度

 基本的不安から生まれる最後の対人態度のベクトルは、人から離れる方向である「離反」です。

 基本的態度は、他人との情動的な距離を保ち、関わりを持たない、という姿勢です。
 ほとんど生理的とも言える、人への疎隔感があります。
 もう何も見ず何も聞かず、自分の中に閉じこもっていたい、という衝動があります。いわゆる引きこもりの感情です。

 この態度はしばしば、あまりにも厳格な環境や、嫌悪感を抱かせるような形でしか愛されない環境で顕著に発達します。
 ここでは基本的不安における不信感が強調されています。誰も信ずることはできない、それどころか人に対して何かの行動をする意味も、その結果生まれる自分の感情も、もう信じないという感覚があります。

 自己意識としては、自給自足と、何ごとにも動じない平静が重要視されます。
 また規則や約束ごと、宿題など、「拘束」を感じるものに対しての自動的な抵抗感があります。
 この態度が優勢な個人は、しばしば結婚にこぎつける前にパニックに陥ります。
 自分の中に、その中では誰にも侵入されない壁を作り、その中においては、空想や自然の中で自分の世界を維持します。
 一方、その壁が破れると、愛することも闘うこともできず、無力に陥ります。

 この強迫的離反が生まれる心理的要因は2つあります。
 ひとつは断念、諦めです。
 勝つためには相手はあまりに強大であり、愛情を求めるにはあまりに不実である場合、子供はそのどちらももはや求めることをやめ、願望を不活性化します。

 もうひとつは混乱と葛藤の回避です。
 個人の態度の選択肢として、追従型と攻撃型のどちらも中途半端な場合、それらは互いに完全に相容れない正反対の態度のため、混乱や葛藤が起きます。
 情愛への要求と怒りが拮抗する状況とも言えます。
 この混乱を回避するため、子供の場合は単純に人格を切り替える分離の方法と同時に、人との距離を保つ離反の態度が取られるものです。

心理発達における離反の役割

 離反の態度は、人の心理発達において多面的な役割を果たします。
 次の3つの側面を考えると、離反の意味が分かってくるでしょう。

 1)基本的不安から生まれた強迫的態度であること
 まず強迫的態度として見た時、それは障害感情そのものです。
 生理的に外界との距離が必要であり、多くの行動が不能になるため、引きこもりとして心理障害の一分類になります。

 2)葛藤状態や心理障害状態に対する回避手段であること
 一方で、自分の中に退却し、積極的な感情を断念することによって、他の強迫態度で生まれる混乱や障害を消去する、実に強力で確実な方法になります。
 引きこもりのように生活全般に渡るのでなければ、「気にしない」「高望みしない」といった日常的な言葉の中で、人間関係から全般的に退却することで、精神的バランスが達成されることがあります。
 これが逆に「治癒」だと見なされることがあります。

 つまりこの2つの側面を通してみると、人は離反によって精神的平安を手にいれることがある反面、それは人間としての情動の放棄であり、人生そのものの回避であるという、両刃の剣であるということです。
 従って、このタイプの人物においては、精神的安定と引き換えにした「人生の空虚」が問題になってきます。

 3)内面の純粋性を維持し真の自己への視点を持つこと
 3つめに考慮すべき側面とは、他の態度が愛や勝利といった積極的な側面を持つように、この態度にも積極的な側面があることです。
 それは内面の自由と純粋性の維持です。

 強迫的追従、もしくは強迫的攻撃への衝動にストレートに動かされた時、人はその感情の欺瞞性を自ら疑うことができません。
 離反的態度においては、情動を不活性化した結果、自分の感情への傍観者的態度が生まれます。

 ここにおいて、他者への不信の目が自分自身に向けられるという、この心理発達過程のひとつの転換点があると言えるでしょう。
 離反型のタイプの反抗は、しばしば、押し付けられたものが偽物であることへの激しい嫌悪を伴います。

 このため、離反傾向の保持によって、不合理な追従衝動や攻撃衝動に心が完全に支配されることを免れます。
 この純粋性を維持することへの衝動が、離反態度の要因として、上に述べたものに加わる3つ目となります。

 心理障害の治癒においては、この純粋性が役割を果たすことがあります。
 また基本的態度として発達した離反態度がない場合でも、心理障害の治癒のためには、ある程度自分を客観視する姿勢と、他人との無用な接近を避ける姿勢が必要になるものと思われます。

 内面の純粋性の維持という観点においても、離反型態度が硬直化するに従って、守ろうとした内面の感情そのものの活力を失っていくという、両刃の剣の構図が存在します。


2003.7.12
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