入門 健康な心への道  -怒りのない人生へ-



4.取り組み1−自分を優しく育てる

4.1 自分を優しく育てる姿勢


自分を優しく育てる姿勢

 では、心理障害からの回復、さらにそれ以上の心の健康へ向かうための、「心の持ち方」について説明に入りたいと思います。

 大きく分けて3つの姿勢もしくは取り組み作業があり、その最初は「自分を優しく育てる姿勢」です。

 これは逆に言えば、人は心理障害の中で、全く容赦なく厳しい、そして成長させまいと心を縛りつけるような、冷酷なストレス自分自身に加え続けているのです。
 これを解除する基本的な姿勢として、自分を優しく育てる姿勢が必要になります。


弱った草木を育てる

 これは直感的には、弱った草木を優しく育てる時の態度です。
 実際、バランスを失った心にあなたが疲れているのならば、実際あなたは弱った草木の状態なのです。

 弱った草木を健康な姿に治すために、怒りを向けて叱咤したところで、どうにもならないことは、すぐお分かりだと思います。
 水や栄養分を与え、適切な室温や日光を与え、静かに時間をかけて、健康な姿を取り戻すことができます。

 これをもし、弱った草木の状態を嫌い、「何でそんななの!」と怒りを向け、たとえば乱暴に打ちつけたとしたら、その弱った草木はすぐに死んで枯れてしまいます。

 実際、心理障害にある人の、自分自身への態度は、まさにこれなのです。
 「何で自分はこんななの!」と激しい怒りを自分にむけ、自分を叱り付けて、「こうならなきゃ駄目でしょ!」というストレスを自分に加えているのです。
 その結果、心が枯れて、死んでしまうようなことが起きているわけです。

 自分を叱るのをやめ、適切な状態を保てば、心も気づくことなく育ち始めます。
 これはまさに草木の成長と似たものです。

 でも、この比喩をイメージすればそうなれるほど、自分を優しく育てるということは単純なことではありません。
 何が必要か、またそれがどのように難しいのかを見ておきましょう。


自分自身のために

 自分を優しく育てる姿勢という時、そこには文字通り、「自分を」「優しく」「育てる」という3つの意図が含まれます。

 第1に、それは自分自身のため、ということです。
 決して、人のために自分を育てるのではないし、健康な人として社会に認められるために自分を育てるのではありません。 あくまで自分自身の幸福のために自分を育てるのです。
 これは、自分の中にある、唯一無二の存在として伸びようとする心の成長を許すということです。
 そのためには、「自分のため」という、自分自身に基準を見出せる姿勢が必要です。

 ところが、私たち現代日本の社会は、自分を唯一無二の存在として成長させることを許す価値観道徳観を持っていないのです。
 それは唯一無二の存在として成長するのではなく、決められた人間像になるように心を縛ろうとする価値観道徳観です。
 決められた姿に、決められた時間でなることを「成長」と呼んでいる価値観道徳観です。
 「自分自身のため」を良しとせず、「人のため」を良しとする価値観道徳観です。

 でもそれは心を縛ることです。心を解き放つことではありません。
 つまり実際には成長していないのです。これは今までの説明からすぐにお分かりだと思います。
 その結果、私たち日本人は、心理障害でなくても、確固とした自分を持たないことになりがちです。
 心理障害においては、さらに深く「自己」が見失われていきます。

 弱った草木の生命力を回復させ、生き生きと成長させるためには、それ自身が成長しようとする内容と速度に尊重を払う必要があります。
 決して、他の草木の真似をさせたり、「望ましい」内容と速度を押し付けても、成長はできないのです。

 まずはこの、「自分自身の成長」を本当に許すかどうか
 これが自分に優しくすることも、成長を遂げることも含めた、全ての始まりです。


 そのためには、私たちがこの社会で身につけた、誤った価値観道徳観を捨て、より健全な価値観道徳観へと、根本的な意識変革をする必要があります。
 このサイトが提供するより本格的な心理学も、この新しい価値観道徳観によって始めて意味が出てきます。

 「心理障害の治療になぜ価値観道徳観が問題になるのだ?」と感じる方もおられるかも知れません。
 その理由は単純です。「病気」ではなく「生き方」の問題であり、「人生」の問題だと考えているからです。

 誤った価値観道徳観を残したまま、今の生き方の中で起きる不安や自己嫌悪といった都合の悪い面だけを消そうとしても、無理というものです。
 根本的に、生き方を変える必要があります。
 あなたがそれを選択するかどうか、ということになります。

 この「取り組み1」では、誤った価値観道徳観をより健全なものに意識変革し、「自分を優しく育てる」ための基本的な姿勢が取れるようになることを目標にしたいと思います。


自分に優しく

 「自分を優しく育てる」の第2の意図は「優しく」です。
 これは自分自身を力ずくで変えようとするのをやめることです。
 休むことが必要な時は休み、無理な力をかけることなく内面から自然に変わる変化に耳をすませることです。

 「こうでなきゃ駄目でしょ!」という自分自身への脅迫的態度は、心理障害の原因であると同時に、結果でもあります。
 がんじがらめの状態で、自分へのストレスが生まれ続けるので、これは「やめよう」と考えたところで消えるほど簡単な話ではありません。よく、「自分を追い詰めるのはやめなきゃ駄目だ!」と自分を追い詰める、というぐるぐる状態になります。



 これは「こうでなきゃ」と自分を縛っているものが、あまりにも大きく非現実的な価値をその人の中で持っているからです。
 その非現実的価値を捨てないまま、それが生み出すストレスだけをなくそうとしても無理です。
 この大きな価値の裏には、恐怖や不安や自己嫌悪感情などから逃れるという、緊迫した要因も控えています。
 自分への力づくのストレスを、力づくで取り除こうとしても無理です。まずできるのは力づくで取り除こうとしないことですね。

 自分を力ずくで変えようとするのをやめられるようになるのは、ここからの取り組みの全てを通してです。
 特に「取り組み3」で、このストレスの根本的な克服を取り上げます。


成長という課題

 「自分を優しく育てる」の第3の意図は、「育てる」です。
 単に優しく気分がなごむことに向くのではなく、「成長」ということを強く意識して、自分の行動や考え方のさまざまな選択肢の中から、自分の成長に最も役に立つものを選ぶという姿勢です。
 「成長する」とは、先のトピックで説明したように、「自分自身によって幸福に近づく能力が増大する」ことです。

 これについて、私たち日本人の問題は、どのような考え方や行動の仕方が心の成長なのかという具体的なことを、単純に、知らないことです。
 「成長」は、何か決められたものになることを指していましたから、自分を唯一無二の存在として心を開放した成長に向かうための具体的な方法など、話される余地もなかったのです。

 確実な医学知識のようなものとして、心の成長のためにどのような考え方や行動の仕方が望ましいかという、知識を持つことが必要です。
 これは主に「取り組み2」で取り上げます。


 ではまず、これら全ての基本となる、「自分自身のため」という姿勢を持つことについて、考えて行きたいと思います。

2003.12.31


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